こんにちは、ヨルです。
陶磁器やガラス細工、木工品に漆器…
日本にはいろいろな工芸品がありますが、職人の細やかな手仕事が光る作品って、とても素敵ですよね。
そんな工芸の伝統文化と、現代的なデザインや美意識がミックスされた、まったく新しい工芸品が見られる展覧会が開催中です。
今回は、パナソニック汐留美術館の「和巧絶佳展 令和時代の超工芸」をご紹介します。
「和巧絶佳」とは?
展覧会のタイトルである「和巧絶佳」とは、
この三つを組み合わせた、現代日本における工芸作品の傾向を表す言葉だそうです。
デジタル化やグローバル化が進む中であえて、伝統的な工芸素材や工芸技法を駆使した手仕事で作品を生み出す。
その手仕事に現代的なデザインや美意識が融合して、工芸の枠を超えた新しい日本の美が生まれる。
作家たちの、こうした意欲的な取り組みの結晶である個性的な作品たちが、とにかく見る者を圧倒する、そんな展覧会です。
SNSでも、「サイバーパンク螺鈿」や「ジャパニーズクレイジーアート天下一武道会」といった、インパクトのある言葉で話題になりましたね。
展覧会の見どころは?
人気作家12名の作品が揃い踏み!
本展覧会では、上記のような工芸作品の最先端をいく、いま大注目の12人の作家が紹介されています。
出品している9割の作家が今回の展覧会のために新作を制作し、出品作品の約3割が初公開の新作ということなので、作家のファンの方には垂涎の内容でしょう。
さらに、作家は全員1970年代以降の生まれ。
若手ならではのセンスで伝統と現代をミックスした、唯一無二の作品が目白押しです!
展覧会は3章構成
本展覧会はタイトルになぞらえて、「和」「巧」「絶佳」の3章構成になっています。
作品はすべて撮影OKだったので、各作家1~2点の写真を交えながら紹介していきますね。
もちろん、会場ではこの他にもたくさん、計114点の作品を見ることができますよ!
第1章「和」 日本の伝統文化に根ざした工芸美
グローバル化に伴う均質化により、地域固有の伝統文化が失われつつある現代。
それに抗うかのように、伝統文化の中にある日本の美意識を基軸として作り出された、工芸というジャンルに収まらない作品が並びます。
舘鼻則孝氏の『Camellia Fields』です。
舘鼻氏は、花魁を江戸時代のファッションリーダーとみなし、そこから受けるインスピレーションにより作品を作っているそうです。
レディー・ガガが着用したことで世界的に有名になった、花魁の高下駄をモチーフとした靴が特に有名です。
写真の作品も、花魁のかんざしをイメージしたものでしょう。
床の椿は、本来は直径300cmの円形に散りばめられるそうですが、本展では直径100cm仕様。
3mサイズの円に敷き詰められる椿も見たかった!さぞ荘厳でしょうね…
桑田卓郎氏の作品群です。
伝統的な茶碗をポップなイメージでデフォルメする氏の作品。
表面を覆うめくれ上がったような装飾は、「梅華皮(かいらぎ)」と呼ばれる焼き物の伝統的な技法だそうです。
梅華皮のランダムかつ大胆な表情と、素地のビビットな色調が相まって、生き生きとした躍動が表現されています。
こちらは深堀隆介氏の『桜升 命名 淡紅』と『百舟』。
まるで生きているかのようにリアルな金魚ですが、実はこれ、絵なんです。
透明樹脂に金魚の一部を描き、その上に薄く透明樹脂を重ねて、更に金魚の一部を描き…という工程を繰り返すことで、立体感を生み出しているそうです。
そのため、上から見ると本物そっくりですが、横から見ると金魚は消えて見えなくなります。
「2.5Dペインティング」と名付けられたこの技法により、氏のイメージの中にしか存在しない金魚、幽玄の水中世界が表現されています。
金魚の中に、現実と幻、リアルさと儚さといった相反する概念が見えて、綺麗なだけじゃない奥深さを感じますね。
第2章「巧」 手わざの限界のその先にある工芸美
デジタル技術の進歩により色々なことが簡略化される現代。
第2章では、そんな時代にありながらも、惜しげもなく時間と情熱を費やして生み出された、手わざの極致とも言える工芸品が並びます。
池田晃将氏の『Neoplasia-engineering』と『Error403』です。
螺鈿や蒔絵といった伝統技法と、レーザー等の現代テクノロジー、さらに氏がなじみ深いサブカルチャーが融合して、息をのむような美しさが表現されています。
数字の細かさ、漆工技術とデジタルのハーモニー、自ら光っているような螺鈿の美しさ…
宇宙のような神秘性も感じられて、何時間でも見ていられる作品です。
こちらは、見附正康氏の『無題』。
九谷焼のひとつ・加賀赤絵の大皿ですが、模様は伝統的なものではなく、氏のオリジナル。
しかも、下絵なしで思いつくまま、直接描き込んでいるそうです。
これでもかというくらい緻密に描き込まれた抽象的な模様は、曼荼羅を想起させます。
皿の形状と遠近感も相まって、吸い込まれそうな魅力のある作品です。
山本茜氏の『薄雲』と『流衍』。
氏は、仏教美術の装飾で使われる截金(きりかね)を、ガラスで挟んで溶着させる独自の技法で、平面の技術であった截金を三次元に昇華しました。
ガラスを通して見ることで、截金が立体的に見えますね。
降り積もる雪や流れる水をガラスに閉じ込めることで、時を止めてその美しさを永久に楽しむ…
日本人らしい心が表れた、風流な作品だと感じました。
髙橋賢悟氏の『flower funeral -cattle-』。
真空加圧鋳造で作られる、超極薄の小さなアルミニウムの花。
この小さな花を積み重ねて動物の頭蓋骨を形作り、生物の生と死を描いています。
ひんやりしたアルミニウムの質感、骨を埋め尽くす花々。
花葬のイメージが表現された、静かで美しい作品です。
第3章「絶佳」 素材が生み出す工芸美の可能性
第3章では、工芸素材そのもののもつ潜在的な美しさをクローズアップ。
伝統的な素材から身近な素材まで、工芸家によって引き出された個性豊かな魅力を味わうことができます。
まずは、新里明士氏の『穿器』『光器』。
光を通すと文様が透けて見えるように、素地に透かし彫りの装飾を施した「蛍手」と呼ばれる技術を得意とする新里氏。
『穿器』は、等間隔に開けられた穴により黒が重くならず、光を通した部分が月明かりの差し込む窓辺にように明るく見えます。
『光器』の方は、その繊細な透かし彫りの模様だけでも美しいのですが、光を通したとき模様がよりくっきりし、器自体が、まるで蛍のように淡く光っているように見えます。
どちらも「器に光を取り込む」という発想が新鮮で、面白い作品でした。
こちらは、安達大悟氏の『つながる、とぎれる、くりかえす』。
この作品は、折りたたんだ布を板に挟んで染める「板締め絞り」で作られています。
この技法は、模様を染め表す方法として最も原始的な「絞り染め」の一種だそうです。
効果的に取り入れられた「にじみ」は、計算した上で染めているとか。
伝統的なのにデジタルな雰囲気も感じさせる、不思議なテキスタイルでした。
坂井直樹氏の『「侘び」と「錆び」の花器』。
氏の金工作品は、1枚の鉄板から鍛金の技法で生み出され、その全体を錆が覆っているのが特徴です。
だから「侘び」に対して「寂び」じゃなくて「錆び」なんですね。
錆のおかげで、冷たいはずの鉄に柔らかい風合いが出て、生活に馴染むオブジェとなります。
この花器は特に、作品と花と余白のバランスが美しく、うちに飾りたいな…なんて思いました。
橋本千毅氏からは2つ、『螺鈿"鸚鵡"』と『花蝶螺鈿蒔絵箱』です。
螺鈿や平文、蒔絵といった伝統的な技術を惜しげもなく施し、玉虫色に輝く華やかな色彩はまさに豪華絢爛。
オウムや蝶の造形も見事で、作品一つひとつが素晴らしい宝石のようでした。
最後は、佐合道子氏の『原生の発露』。
陶磁器による「いきものらしさ」を探求する氏は、「鋳込み成形」の技術で陶磁器に生命を与えています。
本作も、細かなヒダやパーツの組み合わせによって、生命力あふれる海の底のような様子が描かれています。
乳白色で作られた母なる海は優しい風合いで、生命の誕生を見守っているかのようです。
その他いろいろな情報
ルオー・ギャラリーとミュージアムショップ
展覧会の出口付近には、20世紀フランスを代表する画家ジョルジュ・ルオーの作品が見られる「ルオー・ギャラリー」があります。
パナソニック汐留美術館では、ルオーの作品をなんと240点も収蔵しているそうです。
テーマを設けて常設展示されており、展覧会チケットで併せて見られるので、時間があれば覗いてみましょう。
ここのみ撮影不可なので注意です!
また、出口の外はミュージアムショップに直結しており、展覧会オリジナルグッズを始めとする、会場限定の様々なお土産を購入できます。
「和巧絶佳展」の公式図録のみ通販が可能ですので、買い逃したという場合や、見に行けないけど興味がある場合などはチェックしてみましょう。
映像『新しい日本のカタチ 和巧絶佳』
展覧会場の外、美術館のロビーに当たる部分では、本展覧会の理解をより深めることができる映像『新しい日本のカタチ 和巧絶佳』が上映されています。
出品している作家から数人をピックアップして、インタビューや制作風景を交えながら深堀りしていきます。
ナレーションは、俳優の伊藤健太郎さん。
12分程度でサクッと終わるので、展覧会を見終わってから休憩がてら見るのがおすすめですよ。
まとめ
「和巧絶佳展 令和時代の超工芸」、いかがでしたか?
「神は細部に宿る」といいますが、その言葉を痛感させられる展覧会でした。
素材や技法や装飾、パーツ一つの角度まで、一切妥協せずにこだわり抜くからこそ、神がかり的な作品が生まれるのでしょう。
どれも超絶技巧というにふさわしい作品ばかりなので、ぜひ間近で見ることをおすすめします。
当記事は東京会場を基に書いていますが、2021年3月から宮崎会場、9月から京都会場に巡回することが決まっています。
気になったら、お近くの会場をぜひチェックしてみてくださいね!