こんにちは、ヨルです。
植物を描いたボタニカルアートって、本物とはまた違った魅力がありますよね。
リアルな花の姿はもちろん、精密に描く技術にも見とれてしまいます。
そんなボタニカルアートの極致ともいえる、ルドゥーテの『バラ図譜』に関する展覧会が開催中です。
今回は、八王子市夢美術館の「宮廷画家ルドゥーテとバラの物語」をご紹介します。
ルドゥーテという画家について
ピエール=ジョゼフ・ルドゥーテは、18世紀~19世紀のフランスで活躍した植物画家です。
経歴はこんな感じ。
ルドゥーテの植物画は、絵の正確さから、貴族や学者だけでなく園芸家などからも支持を集めたそうです。
「花のラファエロ」や「バラのレンブラント」と称えられ、植物学的にも芸術的にも、バラを始めとする植物を語るのに欠かせない人物です。
人脈と職に恵まれたためお金には困らなかったのですが、浪費癖があって生活がよく困窮したという、人間らしい一面も笑
展覧会の見どころは?
『バラ図譜』の全作品を網羅+貴重な肉筆画も!
本展覧会は、ルドゥーテの最高傑作と言われる『バラ図譜』の全作品169点を展示しています。
ナポレオン皇妃ジョゼフィーヌは、バラの収集に特別熱心に取り組んでいました。
その居館マルメゾン宮殿の庭園に植えられていた多種多様なバラをルドゥーテが描き、その原画をもとに制作された植物図譜が『バラ図譜』です。
今は絶滅してしまったバラの古代種や原種も精密に描かれているため、芸術的価値だけでなく学術的な観点からも重要視されている図譜です。
この他、ルドゥーテが描いた貴重な肉筆画も2点展示されており、貴重づくしの展覧会となっています。
圧巻の「点刻彫版」を間近で見られる
『バラ図譜』には、スティップル・エングレーヴィング(点刻彫版)という高度な銅版画の技術が用いられています。
これは、線ではなく細かい点によって絵を描く技術で、点の集積によって花びらや葉の形、色の濃淡を表現する方法です。
この点刻彫版による原版を多色刷りし、さらにルドゥーテ本人が一枚一枚丹念に手彩色することで、バラの絵が完成するのです。
気の遠くなるような作業ですが、バラの花びらの柔らかさ、ビロードのような質感、種類によって異なる葉の厚みなどが、線画よりも巧みに表現されています。
繊細で洗練され、美しく鮮やかな色彩のバラたちは版画とは思えない緻密さで、『バラ図譜』が単なる植物図譜としてだけでなく、高い芸術性も持ち合わせているのが納得できます。
作品を至近距離で見ると、本当に細かい点で描かれているのがわかるので、ぜひ近寄って見てみてください。
全部で6部構成
第1章「時を超えて咲くバラたち」では、ガリカ系、ダマスク系、アルバ系の古代種や、観賞用のオールド・ガーデンローズを中心に見ることができます。
第2章「ルドゥーテとバラの出会い」では、幼少のルドゥーテが魅了されたかもしれない、ワイルド・ローズを中心に。
第3章「マリー・アントワネットに寄り添うバラ」では、バラを愛好したという彼女のエピソードになぞらえて、オールド・ローズの中でもケンティフォリア系を中心に展示されています。
ケンティフォリアは「100枚の花びら」を意味し、幾重もの薄いピンクの花びらがグラデーションしながら花の芯を包み込んでいく艶やかさで、この時代の人々を魅了し、多くの画家が競ってこのバラを描いたと言われています。
ここで登場する『ロサ・ケンティフォリア』は、ルブランの描いたマリー・アントワネットの肖像画の中で、彼女が手にしているものです。
第4章「ジョゼフィーヌの惜しみなきバラへの愛」では、ナポレオン皇妃ジョゼフィーヌのエピソードになぞらえて、ワイルド・ローズを中心に展示されています。
この章のエピソード解説、私はちょっと違う見方をしてまして…
『ロサ・ガリカ・プロプル・ウィオラケア・マグナ』は、ややピークを過ぎて黒ずみ始めた大輪のバラと、咲いたばかりの小ぶりのバラが並んで描かれています。
この絵について、ナポレオンとの離婚式でのジョゼフィーヌは、娘が支えなければ歩けないほどショックを受けた様子だったというエピソードをもとに、「寄り添う母娘のよう」という解説がされていました。
私としては、そんな綺麗事ではなく、盛りを過ぎたバラがジョゼフィーヌ、咲いたばかりのバラがナポレオンの新しい妻ではないかと思いました。
男児に恵まれず、ナポレオンの愛も冷めて離縁された姿は、まさに盛りを過ぎて散りゆくバラにそっくりだと思うのです。
また、『ロサ・ビフェラ・マクロカルパ(オータム・ダマスク)』は、鋭いトゲでびっしり覆われた茎が特徴のバラです。
この絵の解説で、バラのトゲは「戦地からジョゼフィーヌに送ったラブレターに返事ももらえず、冷たくされたナポレオンの男心」とされていました。
私はむしろ、夫といえども容易に心を許さず、簡単には手に入らない恋多きジョゼフィーヌの方にこそ、トゲに覆われたバラの姿がしっくりくるのではないかと思いました。
第5章「ルドゥーテが描いたバラの軌跡」では、ワイルド・ローズ系、チャイナ系などを満遍なく見ることができます。
この章および第3章・第6章で散見される「プロリフェラ」という言葉は、「貫生」という花の奇形状態を意味しています。
咲いている花を突き破って新しい蕾や葉が出ているその姿は、なんともグロテスクであり、独特の魅力があります。
第6章「肉筆画と銅版画で息吹くボタニカル・アート」の見どころは、なんといっても『ロサ・ムスコーサ・アルバ』だと思います。
蕾の萼片や茎にびっしりと突起が生じ、これが苔のように見えることから「モスローズ」と呼ばれる品種ですが、点刻彫版の技術が惜しみなく発揮されています。
微細な苔の表現や柔らかさは、点刻彫版の細かな点でないと絶対に表現できないと思います。
特に萼片部分の表現が見事なので、ぜひ間近で見てみてください。
また出口付近では、ルドゥーテの貴重な肉筆画を2点見ることができます。
動物の皮をなめして作ったヴェラムに描かれているのですが、ヴェラムはあまり水を吸い込まないため、水彩画の難易度が高いのと引き換えに発色が鮮やかなのが特徴です。
肉筆画2点は、200年経った今でもみずみずしい色彩を放っているので、ルドゥーテの確かな手腕が伝わってきますね。
まとめ
「宮廷画家ルドゥーテとバラの物語」、いかがでしたか?
気品あふれる美しいバラの姿もさることながら、超絶技巧とも言える点刻彫版、丹念な手彩色など、一枚の作品にかける技術のすごさも体感できる展覧会でした。
当時の人々と同じく、見る者の心をつかんで離さない高貴な魅力が、そこにあります。
気になったらぜひチェックしてくださいね!