こんにちは、ヨルです。
実は私には、30歳になるまでに見ようと心に誓っていた映画があります。
世界に轟くアニメ映画の金字塔、『AKIRA』です。
超名作なのは知っていたのですが、実はまだ見たことがなくて…
漫画のほうも、中途半端に2巻と3巻しか読んでいないのです。
もう何年もずっと、見ようとしては勇気が出ず、勇気が出てもレンタル屋に在庫がなく、を繰り返していたのですが、この度ようやく30歳の誕生日滑り込みで視聴に成功しました!
(ここまで躊躇していた理由は、私にグロ耐性がほとんどないことが理由です笑)
世間の評価に違わぬ衝撃的な作品だったので、感想等を書き留めておきます。
ネタバレを含むので、未視聴の場合は注意してくださいね!
作品概要
同名の漫画を原作とし、原作者である大友克洋自らを監督として1988年に公開されたアニメーション映画です。
製作期間3年、総製作費10億円、総セル画枚数約15万枚、3DCGアニメーションとセル画の合成など、当時のアニメ映画としては破格の資金や技術を惜しげもなく費やしているのが特徴です。
製作当時は漫画が連載中だったため、原作の3巻ぐらいまでの内容+映画独自のラストという構成をとっているそうです。
印象的なセリフの数々、緻密に描き込まれた各カット、息つく間もないスピーディーなアクションシーン、憧れの金田のバイク…
これまでにない世界観と映像技術で国内外を席巻した、伝説的傑作映画と評価されています。
あらすじ
1988年7月16日、東京で新型爆弾が炸裂し、第3次世界大戦が勃発。
その31年後の2019年、金田は仲間を率いて、夜ごと新首都・ネオ東京をバイクで暴走していた。
ある夜、いつものように暴走行為をしていた金田たちだったが、立入禁止の高速道路内で、仲間の一人・鉄雄が転倒して負傷する。
すぐに現れた軍(アーミー)は、現場に居合わせた奇妙な子供と、怪我で動けない鉄雄を回収し、立ち去る。
一方街では、反政府ゲリラの活動が激化する中、謎の存在「アキラ」の覚醒が予言されていた。
軍の実験により超能力に目覚め、暴走する鉄雄。彼を奪還しようと奮闘する金田。
様々な思惑が錯綜する中、ネオ東京を舞台に、彼らの戦いが始まる。
主な登場人物
金田 暴走集団のリーダー。赤いバイクがトレードマーク。
鉄雄 金田のチームの一員。軍による人体実験の結果、超能力に目覚める。
ケイ 反政府ゲリラグループの女性。金田と行動を共にする。
大佐 軍の最高指揮官。
ドクター ナンバーズたち超能力者の実験管理者。
ナンバーズ タカシ(26号)、キヨコ(25号)、マサル(27号)。超能力がある。
アキラ 物語の最重要要素。
感想・解説
サイバーパンクと民族音楽の見事な融合
冒頭のバイクシーンから、いきなりその異彩ぶりを発揮する音楽。
この、民族音楽を思わせる独特の劇伴は、『AKIRA』の重要な魅力の一つだと思います。
サイバーパンクなのに民族音楽?と思うんですが、これが不思議なくらいマッチするんです!
というのも、民族音楽には、自然や神など見えない力への畏怖の念が込められていることが多いからだと思います。
ナンバーズや鉄雄がもつ超能力、そして「アキラ」という圧倒的な存在は、まさにその畏怖の対象となるべきものに相当しますよね。
そういった共通点が、近未来を描いた『AKIRA』と民族音楽の奇妙で奇跡的な融合を生んでいるんじゃないかと考えます。
なお、これらの特徴的な劇伴は、「芸能山城組」が一手に担当しています。
民族音楽を題材にし、文明批判をテーマに活動している、かなり独創性の高い集団です。
『AKIRA』を一通り見終わったら、その唯一無二の音楽に注意を向けて、もう一周してみるのも良いでしょう。
きっと耳から離れなくなりますよ!
ラッセラ ラッセラ ラッセラッセラッセラ…
「アンバランス」が一種のテーマか
『AKIRA』には、対象的というか、アンバランス(不均衡、不安定)なものがたくさん出てきます。
繁栄して光り輝く首都と、反政府ゲリラ活動が絶えないスラム同然の街。
子供の体と、年老いた外見。
「アキラ」という圧倒的な存在と、それを扱いきれずにひた隠す軍。
強大な超能力と、コントロールを失って自壊していく鉄雄。
また、金田たち10代が抱える、思春期の心と身体のアンバランスさも、重要なファクターでしょう。
こうしたあらゆるアンバランスが生み出す不満や悲観や破壊衝動が渦を巻いて、その象徴として存在するのが、能力に目覚めて凶暴化した鉄雄だと考えます。
アンバランスが極まって今にも崩壊しそうな、不満だらけの現状をぶっ壊したい・ぶっ壊してほしい。
オリンピック会場に向かう鉄雄の背後に、たくさんの民衆がついてきたところ見ると、みんな心の底ではそう願っていたのではないでしょうか。
軍を、超能力実験を、オリンピック会場を、ネオ東京の街を破壊し尽くした鉄雄は、ある意味では救世主的な存在だったのかもしれません。
金田と鉄雄の関係
養護施設時代からの付き合いである金田と鉄雄。
金田は喧嘩が強く、鉄雄は泣き虫で、出会った頃からパワーバランスがはっきりしていたこともあり、鉄雄はずっと金田に劣等感を抱いていました(これも「アンバランス」の一種ですね)。
それが能力の覚醒を契機に、殺意へと膨張していくのですが…対象的に金田は、最後まで鉄雄を思って行動します。
ゲリラのアジトで盗み聞きをした時は、鉄雄を探すためにラボ潜入に同行できるよう働きかけますし、チームの一員が鉄雄に殺されたことを知ったときは、介入しようとするキヨコに「落とし前は仲間である自分たちがつける」旨の発言をします。
いずれも、鉄雄を「仲間」として考え、兄貴分として接する金田の姿です。
また、「ずっと一緒だったんだ、養護施設にいた時から。あいつのことなら何でも知ってる」という発言から、家族のいない金田は、同じ境遇の鉄雄を家族同然に大切に思っていたことが伺えます。
では、鉄雄は本当に、心の底から金田を憎んでいたのでしょうか。
終盤、能力が制御できなくなって肉塊のように膨張した鉄雄は、金田の名前を呼んで助けを求めます。
それに応えてアキラの光に飛び込んだ金田は、幼い二人が出会ったときの鉄雄の記憶を見ます。
能力の覚醒により凶暴性が増長されただけで、本来の鉄雄は、金田を頼もしく感じ、誰よりも大切に思っていたのではないでしょうか。
とはいえ、劣等感や兄貴ヅラに上塗りされて素直になれない二人の気持ちのすれ違いが、親友同士の対峙という悲劇を生んだかと思うと、やるせないですね。
物語の結末…宇宙の誕生と、能力の芽生え
ラストは非常に意味深でしたが、私は以下のように解釈しています。
まず、アキラの光に飲み込まれた鉄雄は、異次元に連れ去られ、そこで新たな宇宙に生まれ変わったのではないか、ということ。
これは、「(アキラに)鉄雄くんを連れて行ってもらう」というキヨコの発言、「宇宙が誕生したというのか」というドクターの発言から推測しています。
光の中で金田が、アキラを含むナンバーズが超能力を手に入れる前後の記憶や、金田と出会った頃の鉄雄の記憶を見ていることから、鉄雄がアキラと融合したことも考えられます。
また、エンディング直前、『2001年宇宙の旅』を思わせるような断片的な映像が流れるのはビッグバンを想起させますし、
「僕は…鉄雄…」というセリフも、まるで子供のような印象を与え、生まれ変わったのではないかという推測を補強します。
鉄雄は死んだのかという問いに、金田は「さあな」と答えていますし、鉄雄は超越的な存在となってどこかに存在し続けている、と考えられるのではないでしょうか。
軍の身勝手な実験に振り回されたといえば被害者だし、破壊の限りを尽くしたといえば加害者である鉄雄が、「死」という概念のない宇宙に生まれ変わるのは、彼への救済なのか罰なのかはわかりませんが…
そして、アキラのような力がすべての人に目覚め始めていること。
「いつかは、私たちの中にも」「もう始まっているからね」というナンバーズの意味深なセリフからの推測ですが、
アキラのように宇宙をも創造し得る強大な能力の可能性が、このような破壊を経て、すべての人々に芽生えたことを示唆しているのではないでしょうか。
キヨコは「能力が目覚めた時、その人は使い方を選択しなければならない」とも言っています。
もしいつか、金田たちにも超能力が目覚めたらどう使うか?などと考えてみると面白いですね。
願わくば、破壊と創造が繰り返されて、いくつも宇宙が誕生するような世の中になりませんように。
それにしても、アキラはすごい存在感でした。
全編を通してひとつもセリフがないのに、終盤にようやく姿を現したときの、(ああ、もう大丈夫だ)と安心できるあの感じ…
神々しくさえ見えましたね…実際光ってたけど…
『AKIRA』はトラウマになる?
『AKIRA』と検索すると、「トラウマ」がサジェストワードに出てきます。
本作のトラウマ要素として懸念されるのは、「グロ表現」と「肥大化した鉄雄」ではないかと思います。
前者は、こんな世界観ですし、割と最初から最後まで血と暴力に満ちています。
ですが、特に凄惨な現場は、ほんの一瞬だったり遠目に描写されたり殺害シーン自体は描かれなかったりと、直接的に描写されることはほとんどありません。
一瞬我慢すれば大体のシーンはやり過ごせるのではないかと思います。
後者は、終盤の鉄雄のことで、能力を制御できなくなって巨大な赤ん坊のような姿になります。
機械類と人肉が融合したグチャグチャとしたその姿は、別の意味でグロテスクで、トラウマになったという人が多いようです。
終盤の重要なシーンであり、避けて通るのは困難なので、この手のグロさがだめな人は薄目で見るなどして対応するしかないかと思います。
なお、2020年に実施された再レイティングでは、『AKIRA』はPG12に指定されました。
指定理由は、「金田たち未成年がノーヘルでバイクに乗っていたから」(要約)。
「映倫的に引っかかるレベルのグロ描写はない」と考えれば、少しハードルが下がるのではないでしょうか。
グロ耐性が極端に低く、『もののけ姫』でギリギリの私でも、トラウマにならずに見ることができましたよ!
『AKIRA』はどこで見られる?
DVD・ブルーレイを購入またはレンタルする
DVDや通常のブルーレイは、一般に流通しているためECサイトやお店で購入できます。
また、TSUTAYAを始めとするレンタルビデオ店で借りることもできますよ。
お店によっては「今見るべきアニメ映画」等の特集コーナーに置かれていたり、10枚近くレンタルの在庫を用意していたりと、30年前の映画とは思えない待遇で、人気ぶりが伺えます。
なお、2020年4月には、4Kリマスター・HDR化・5.1ch新音源採用の4K Ultra HDブルーレイ特別セットが発売されました。
物語の舞台となった2019年を超えても、『AKIRA』の勢いはとどまるところを知りませんね。
IMAX導入映画館で4Kリマスター版を見る
上記のブルーレイ特別セットの発売に先立ち、2020年4月3日から、IMAXを導入している国内36の映画館で、『AKIRA』が上映されました。
この上映には、特別セットと同様の4Kリマスター映像・5.1ch新音源を使用。
美麗な新音源を大音量で聴きながら、高精細で鮮やかに蘇った『AKIRA』を大スクリーンで見られるなんて、とっても贅沢な体験ですね!
こちらの上映は、各映画館で終了しているようです。
タイミング的に、コロナ禍で見に行けなかったという人もいそうなので、落ち着いたら是非再上映してほしいですね。
動画配信サービスで見る
U-NEXTやhulu、Amazonプライムビデオといった主要な動画配信サービスでは、『AKIRA』が配信されているようです。
外に出るのも気を使う昨今、借りる手間や返却期限を気にせず、おうちで『AKIRA』鑑賞会というのも楽しそうですね。
まとめにかえて
本文に入れられなかった雑多な感想を少し。
などなど。
30年前の映画なのに全く古臭くなく、むしろ新しさすら感じる映画でした。
物語の舞台になった2019年は超えているのに、現実はまだ『AKIRA』の世界に追いついていない感じがします。
本当に、繰り返し見て、何度でも没頭し、新しい発見をしたり解釈を考えたくなる作品でした。
気になったら是非チェックしてみてくださいね!